chinorandom

彷徨する自由帖

MENU

なだらかな眉山の曲線や、旧百十四銀行徳島支店が持つ直線|四国・徳島県ひとり旅(6)

まゆのやま……。その「形状」から眉山と名付けられた山だと聞き、新町橋の側に立って、泰然とした姿を見上げた。手前にあるビルの「探偵社」や「カメラ高価買取」などという文字列につい気を取られてしまうが、違う違うそっちじゃないよと自分に言い聞かせる…

最近出会った塩味がきいているもの……

SEA GLASS CANDY、しおサイダー、スイカのカクテル。最近出会った「塩味」がきいているもの。

高田大介《図書館の魔女》は「言葉」に溺れて見る壮大な夢の一幕みたい|ほぼ500文字の感想

耳は聞こえるが声を発することができぬ唖者のため、手話を用いて意思の疎通を行う《図書館の魔女》、名をマツリカ。そして、常人よりはるかに鋭敏な感覚を持っているものの、文字の読み書きができない少年キリヒト。1の言葉で100を想像させる表現があるとす…

【初心者向け】Mastodonという窓から分散型SNSの連合に触れる - 好きな投稿やユーザーの見つけ方を模索中

分散型、時に連合型とも呼ばれるSNSのなかでも、ActivityPubという通信プロトコルを使用している「Mastodon(マストドン)」に触り始めて数か月が経った。初めは「分散型? ううむ……中央集権型の対極に位置するのは分かるけれど、具体的な『感じ』は一体どうな…

アゴタ・クリストフ《悪童日記》面白かったからこそ続きを読みたくない稀有な1冊|ほぼ500文字の感想

時代や地域を特定させる固有名詞が意図して省かれているにもかかわらず、読んでいれば、舞台が第二次世界大戦中のヨーロッパのどこかであることはすぐ明らかになるだろう。アゴタ・クリストフ「悪童日記 (Le grand cahier)」は、3部作を構成するうちの初めの…

【閉店】構築された目眩く世界、カド - 季節の生ジュースとくるみパンの店|東京都・墨田区

言問団子の店舗から桜橋方面に向かって3分くらい歩くと、交差点に面した位置に、文字通り「カド」という飲食店があった。季節の生ジュースとくるみパンの店。この、盾のような看板には思わず足を止めてしまう。お店の公式Instagramを参照すると制作者の方々…

週間日記・2023 8/14㈪~8/20㈰

2023年8月14日㈪~8月20日㈰の日記(順次追加)

エッセイを寄稿します:文学フリマ大阪11 2023年9月10日㈰ - 批評誌『Silence』Vol.2《病いとともに。》へ(試し読みあり)

「批評誌『Silence』Vol.2 ~病いとともに。~」にエッセイを寄稿しました。タイトルは「記憶 - 病と病院、本にまつわる六つの章 -」になります。来月開催の文学フリマ大阪11、会場のK-53ブースにて頒布される予定です。

【はじめての繭期 2023SUMMER】感想 - 舞台TRUMPシリーズ初見(&漫画版)

はじめての繭期とは、脚本家の末満健一氏が手掛けるオリジナルの舞台「TRUMPシリーズ」から、数作品が不定期に無料配信される企画。まだ作品を知らない人への入口として、気軽に内容に触れる機会を設けてくれているのは大変ありがたい……! 私は友達に「好き…

かなり緑茶がおいしい向島「言問団子」の都鳥 - お皿に可愛い絵柄|東京都・墨田区

向島の和菓子の店「言問団子」は店内に椅子と机が置かれていて、団子か最中(もなか)を注文したら座ってすぐ食べることができる。峠の茶屋みたいな趣、壁の2面が硝子戸で明るく、春先に訪れた際は吹き込む風も心地よかった。でも季節柄なのか相当に強い風で…

記録されなければ、痕跡が残らなければ、それは「無かったこと」になってしまうから

あるものが、確かにそこにあったと示すもの。仮に失われれば、確かに存在していたという証拠が揺らいでしまうもの。この場合の「痕跡」というのはなんと表現すればよいだろうか。文字や図画などはほとんど記録そのものだといえそうだけれど、例えば目に見え…

月の印(しるし)の喫茶店 - café & antiques, 店内での写真撮影禁止|神奈川県・横須賀市

つめたいカフェ・アマレットは、炎天下の砂浜に3時間もかがみ込んで、無心でガラスの欠片を拾っていた身体によく沁みた。爽やかでほんのりと甘い。表面のクリームを落としてかき混ぜると、よりまろやかになる。その大きなグラスに浮かぶ砕氷が奇しくもシーグ…

ひと粒のオリーブ、串焼き羊肉、朝食トレーに乗ったドライフルーツ:P・A・マキリップ《オドの魔法学校 (Od Magic)》

絶版の日本語版は手に入らなかったので、原著の電子書籍を購入して読む。「オドの魔法学校」は何より、ヌミス王国の都ケリオールに存在する区画のひとつ、トワイライト・クォーター(Twilight Quarter, 原島文世氏訳だと「歓楽街《黄昏区》」となっている)…

【乗車記録】寝台列車〈サンライズ瀬戸〉で瀬戸大橋を渡った夜のこと|半夏生の四国・香川県散策(1)

地上に張りついたレールを基盤として、暁を待つのではなく、そこへ向かってひたむきに走るのが夜行列車だ。そう、真面目かつ「ひたむき」に、自らに与えられた職務に忠実に、両脇から迫る闇を振り切っていく。それは夜に属し揺蕩うものというよりかは、夜を…

脊髄反射的な「定型文」に対して感じる、半ば脊髄反射的な憤りとしての火炎

私が嫌いなのは、web上で特定の語句を入力して検索を行うと、結果の一番上にまるで広告のように厚生労働省の「自殺対策 - 電話相談」というページが自動的に出現する現象。タイトルからページの内容に飛ぶと、そこにはなんとかSOSとかなんとかホットラインと…

魔法のソーダ水

スーパーマーケットの、お菓子作りの材料が置いてある一角で見かける、「ケーキマジック」という商品を眺めるのが幼い頃から好きだった。特別な存在だった。それは製菓用に売られているお酒で、楕円形をし、底だけが平たくなった取手付きのガラス瓶に、エプ…

猟奇、パッション、果物の甘い香り|ほぼ500文字の回想

「なんと、うまそうなつらだ」鹿児島県産のパッションフルーツ3個入りを買って以来、毎日彼らを眺めてこう考えている。情熱、ではなくて「受難(パッション)」の果実というのもなかなか面白い名前で、それが「磔刑」の十字を連想させる花の形状に由来する(…

【宿泊記録】ビジネスホテルマツカ - JR穴吹駅周辺の宿泊施設、朝食付き|四国・徳島県ひとり旅(5)

脇町の重伝建保存地区を見学するにあたり、宿泊したのはビジネスホテルマツカ。JR穴吹駅から徒歩で約15分、オデオン座までは約20分といった立地で、このあたりは特に路線バスなども通っていないため、散策気分でぶらぶら歩いてみるのが吉。面白いものが沢山…

JR徳島線を利用して城下の脇町「うだつの町並み」を訪う - 阿波藍のふるさと吉野川|四国・徳島県ひとり旅(4)

JR四国のコーポレートカラー(と、言うらしい)は明るい水色で、私はこれがとても好きだった。駅名の看板に使われているロゴや、車体を彩るラインにもしばしば使用されている、爽やかな色。詳細を調べれば「澄んだ空の青」のライトブルー、と出てきて深く納…

茱萸の実、桑の実、幻の烏瓜の実

古い監獄の敷地内にグミ(茱萸)の実が落っこちていた。 もちろん忽然と出現したわけではなく、通路近くの茂みには元となる樹が生えていて、枝から地面に落下してきたのだろう。実の、張り詰めたうすい皮は光を透かして、同じように半透明の果肉を輝かせ、磨…

誇り高き魔術師と人を信じられなくなった王様《The Forgotten Beasts of Eld(妖女サイベルの呼び声)》P・A・マキリップの小説

来年で原著の出版から50年を迎える作品、パトリシア・A・マキリップの《The Forgotten Beasts of Eld》を読んだ。第一回世界幻想文学大賞の、大賞受賞作。タイトルは安直に訳すると、「エルドの忘れられた獣たち」……に、なるだろうか。その通りに、作中には…

昼、ひっそりと開いては閉まるお蕎麦屋さん|神奈川県・横浜市

この店は基本、土日も営業しているが不定休で、昼間の1時間半しか開けていない。営業しているかどうかは、のれんの有無が目印。入店すると「うちは『おまかせ蕎麦3種』のコースひとつしかメニューがございませんがよろしいですか」と聞かれ、はい、と答える…

夏目漱石と「莞爾vs苦笑」のフォトグラフ:随筆《硝子戸の中》の【二】より

夏目漱石は大正4年に「ニコニコ倶楽部」という雑誌社からの取材を受けていた。とはいっても写真を1枚提供しただけのことだが、それが疑惑の1枚となった。この「ニコニコ倶楽部」は「ニコニコ主義」なるものを提唱していたらしく、発行していた月刊雑誌の名前…

火の国・火の山|文豪と手紙

「あづま菊いけて置きけり火の国に住みける君の帰りくるかね」上の手紙と同じ明治三十三年の6月中旬、子規が漱石に寄せた書簡に記されていたもの。差出人の住所は下谷区上根岸町(現在の東京都台東区)。そして、受取人の住所は熊本市北千反畑、旧文学精舎跡…

アンナ・カヴァン《氷》極寒の世界の裏側でインドリ達が奏でる無垢な歌|ほぼ500文字の感想

アンナ・カヴァンの《氷》(山田和子訳)を読んでいた。白い魔にほぼ閉ざされた世界の物語といえば、カヴァンと同じ英国出身の作家・セローの「極北」が私には身近だけれど、その趣は全然違う。いや、そもそも……と《氷》の内容を回想した。原題も"Ice"なので…

ローカル鉄道・上信電鉄~上州富岡で降車し製糸場へ|ほぼ500文字の回想

どうやら上信電鉄、かつては実際に下仁田から長野(現在の佐久市あたり)まで延線を行う計画が存在していたようだった。そのため電化へと舵を切った際、明治期には「上野(こうずけ)鉄道」だった社名が、大正10年に「上信電気鉄道」へと変更されている。現…

太宰治《津軽》をきっかけに津軽半島を縦断した秋の記憶、龍飛崎をめざした - 青森県旅行・回想(1)

昨年の秋、ふと太宰治の「津軽」を手に取ってから、実際の津軽地方に足を運んでみたい気持ちが強まった。それで間を置かず(つまり衝動の熱が変質してしまう前)に行ってみた。羽田から青森へ飛ぶとなんと1時間半程度で着いてしまう。青森空港のガラス壁に、…

運命が決定される前の抽象的なケーキについて|ほぼ500文字の回想

先週の話。9月の京都文フリで出る合同誌へ寄稿する文章、その提出期限がジリジリ迫っていて、しかしこれは確実に終わるだろう……と目途は立った。ような、気がした。気がしたから退勤後に、最寄り駅から少し離れた洋菓子店へと足を延ばした。珍しくケーキが食…

【本紹介】《明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記》著者が当時の “はみ出し者” たちへと向ける敬愛

「日本の新聞黎明期。女だからと侮られ、回ってくるのは雑用ばかり。婦人記者たちは己の体一つで、変装潜入ルポ〈化け込み記事〉へと向かっていった——」明日発売される書籍で、自分が日頃抱いている関心と重なるものをお送りいただいたため、ここで紹介する。

揚輝荘北園に建つ《伴華楼》の再訪記録 - 設計・鈴木禎次は夏目漱石と相婿の関係にあたる|名古屋の近代建築

// 前に来たときと同じく季節は冬。けれど、当時の名古屋は雨だった。 確か小雨で、歩きながら傘は差していなかったような気がする。そこかしこに小さな屋根はあっても全身が湿るから、広い庭園に長居するのは憚られて、早々に南園の聴松閣内部へ避難してし…