先日に秋田新幹線の車内で食べたのは、大館の株式会社 花膳が提供している弁当『鶏めし』。お酒は由利本荘、齋彌酒造店が製造元の『雪の茅舎 奥伝山廃』だった。マストドン(Masodon)に掲載した文章です。
大きなお屋敷の脇や裏を通る細い道では、きちんと黒猫の気持ちになって歩くのが通行の際のルール。背筋を伸ばし、心持ち爪先の方に体重をかけて、できるだけ軽やかに……まがりなりにも黒猫なのだから、決してよろめいたりはしないものだ。たとえ途中で、小さ…
物語の中には単に美味しそうなだけではなく、妙に気になる、あるいは場面や状況も含めて印象的に描かれた食べ物や飲み物がよくある。周囲からすすめられて原著と日本語訳両方を手に取った、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの小説「九年目の魔法(Fire and Heml…
飴玉。氷。寒天。それらに似ていて食欲をそそる、異常に美味しそうなもの。食欲というか「触欲」かもしれない。触りたくもなるので。国内に残る大正~昭和初期に建てられた邸宅などの建築物を巡っていて、ときどき出会うガラスのドアノブは、だいたい透明だ…
最近ボルヘスの「円環の廃墟」を読み返したら、去年に上のブログに感想を書いた、中島敦の「木乃伊」を思い出した。共通点を感じたのは、連綿と続く何かと対峙したときに覚える閉塞感。卵が鶏になり、その鶏が生んだ卵がまた鶏になり卵を産んで、その卵もま…
世間的に支持される考えや言葉には支持されるだけの理由があるはず。だから一応考えておいた方が己のためになりそうだと思いつつ、じっくり突き詰めて考えたが、とりあえず自分とは合わないと判明した。自己肯定感至上主義には馴染めない。そもそも常に前向…
10月の誕生石には2種類あるらしい。トルマリンと、オパール。1990年代後半から2000年にかけて、特にトルマリンの方は「ピンクトルマリン」と色を限定して語られる場合が(なぜか)多かった記憶があり、幼少期はそれが不満だった。あのごく薄い赤紫色が、そこ…
何年も前のストリートビュー写真では「TOBACCO」となっていた右手の看板が、2022年に行ってみると「切手・印紙」に変わっていた。些細なところで確かな時代の流れを感じさせる。そして、明朝体を少し弄ったような字体がレトロで可愛い。赤と朱の中間みたいな…
語り手である子どもの視点が巧みに活かされた「小公女」や「秘密の花園」など、国境を越えて愛される名作を生み出した作家、フランシス・イライザ・ホジソン・バーネット。彼女は自分自身を振り返る文章を残している。この、自伝である。自伝、と一口に言っ…
朝、久しぶりに薄手のトレンチコートをハンガーから下ろした時の喜びを思い出す。今は椅子の背中にかけている上着。防寒具があるかぎり、寒さは常に私に味方する。なんて動きやすい季節だろうか。あらゆる魔法が適切にとどこおりなく機能する。狂ったような…
9月末に初めて訪れた秋田県。1泊2日の短い旅程で、田沢湖周辺散策と秋田市の近代建築見学を目的に、新幹線に乗った。そういえば秋田新幹線は今年で開通25周年を迎えるらしい。水面に落ちた紅葉の葉を連想させる、にじむような赤い色をした車体が印象的だった…
神居古潭駅は明治34(1901)年、北海道官設鉄道の簡易停車場(貫井停車場)として始まった。数年後に停車場へ、そして明治44(1911)年には一般駅に昇格して、貨物の取り扱いも開始される。やがて昭和44(1969)年9月に営業が終了するまで、無数の機関車がそのプラ…
一説によると、美男子エンデュミオーンも羊の群れを飼っていた。ギリシア神話で月の女神に見初められ、人間である彼の有限の命を惜しんだ彼女(あるいは、その嘆願を受けたゼウス)によって、ラトモス山の岩陰で永遠の眠りにつくこととなった人物。手元にあ…
山中を、1匹の野生のオオカミが全力で疾走している……。足音と激しい息遣いを周囲に響かせて、森の藪の奥を目指し。私が以前「狼疾記」という題名を目にして、すぐ頭に浮かんだのはそんな情景だったが、実際の意味は異なっている。狼疾、の熟語は心が乱れてい…
外出先で雨が降っていると、他に目的があっても屋内に留まって何か飲んでいたくなる傾向にある。とりわけ、もう少し時間が経てば晴れそうな気配がするときは。ずっと土砂降りなら早く自宅かホテルに帰りたいし、反対に快晴なら、大抵は歩いて回りたい場所の…