文字の霊などというものが、一体、あるものか、どうか。中島敦の短編《文字禍》はこんな書き出しで始まる。題の字を読むごとく、文字による禍(わざわい)の話だ。舞台は遠い昔の新アッシリア帝国。そこで紀元前7世紀頃に支配者として君臨していたアッシュー…
サマルカンドとシャフリサーブスを観光した後、タシケント(タシュケントとも。古くはチャーチュ、石国などと呼ばれていた)を訪れた。一番初めに降り立った都市でありながら、実際に色々と見て回ったのは最後。ここはソビエト統治時代から現在に至るまで、…
根岸駅から徒歩10分もかからない程度の距離にある、緩やかな丘の上には、細身のさんかく屋根が目立つお屋敷が建っている。頂点にいただくのは銅の棟飾りで、目の前にはシュロのような南国風の木が何本か。写真を撮りながらさらに近付いてみると、その洋館は…
平成から令和へと、年号が変遷した2019年が過ぎ去った。数年前に一人で旅行し始めてから引き続き、今年も決して多くはないけれど、色々な場所を訪れることができた……と思う。特に国内で重点的に巡ったのは明治・大正・昭和初期に建てられた邸宅や史跡。その…
外部で執筆した記事の紹介です。今回はご縁あって、webメディア〈りっすん - はたらく気分を転換させる深呼吸マガジン〉さんにて、「会社員として働くこと」について書いたものを掲載していただきました。昔の自分からは、とても想像できないような場所で働…
サマルカンドから直接シャフリサーブスまで行くには山を超える必要があった。これから対峙するのは、最も高い地点で標高2000メートル近くなる、それなりに険しい道。位置としては、国境を隔てたタジキスタンに大部分が存在している、ザラフシャン山脈の「西…
体調を崩すと著しく食欲がなくなる。それでも、何かを口に入れないと弱る。ならば逆に、わずかでも飲み食いできるうちはまだ、人はこちら側の世界に根を張っていられるのだ――とも思えた。黄泉や冥界ではなくて、現世の食べ物を喫することができる限りは。今…
選ばれし者(The Chosen One)という大層な響きの言葉を聞くと、何だか心がムズムズしてくる人……は読者の中にもきっと少なからずいる。それが好意からなのか、はたまた嫌悪からなのかはまだ判断せず、据え置いておこう。ごく個人的な話になるのだが、最近は…
突然だが、先日アニメ版《鬼滅の刃》を26話まで視聴した。作品の舞台は、大正時代の日本だ。フィクションではあるものの実際に存在する場所が度々描かれており、アニメ第七話で主人公一行が浅草に辿り着いた際は、暗闇に浮かぶ電気館らしき建物や凌雲閣の姿…
ここは、前回の記事で少しだけ言及したアフラシャブの丘だ。今は見渡すかぎり何も残っていないが、昔はサマルカンド(旧名:マラカンダ)の中心地として長く栄えていた、美しい場所だったという。宗教や民族の隔てなく、多くの人々が集まり賑わっていたと伝…
港町・長崎は洋館の宝庫だ。訪問時は肌寒い空気を感じつつ街歩きを楽しんだのに加えて、グラバー園で3つの重要文化財指定建造物を中心に、各所から移築された貴重な洋館群を記憶と写真に収めた。なかでも旧グラバー住宅は明治日本の産業革命遺産を構成するう…
オアシス。砂漠の国で、ザラフシャン川のほとりに築かれた美しいサマルカンドの街は、時にそう呼ばれることがある。グーリ・アミール廟から北東へと進み、大通りを渡った先で目にしたレギスタン広場は、その中で「水辺にないオアシス」と称されても良いので…
目的地を頭に思い浮かべ、はぁ行きたいな......と念じ続けていると、いつのまにか航空券の予約が確定されている。口座からはその分のお金がしっかり減っている。つまり、どこかへ旅行するのを決めるというよりか、もう既に「決まっていた」と言う方が私にと…
人間はただ生きているだけで、そこに存在しているだけで価値がある――なんてものは嘘も嘘、大嘘だ。それは、世の人間のうちほんの数%が享受できる特権であって、残りの大多数は適切な努力をしなければ、同じ土俵にすら上がれない。確かに生きているだけで、…
横浜元町は、明治・大正期の雰囲気や史跡が好きな人(私です)にはうってつけのお散歩スポットだ。西洋館をはじめとした異人達の暮らしの痕跡や、歩道の傍らに自働電話ボックスの復元などがあり、どのエリアを歩いていても当時の雰囲気を偲ばせる何かに出会…